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YAおすすめ今月の1冊【2025年3月】

『落花流水』 鈴木 るりか/著 小学館

 
 
   
 
「落花流水」とは散りゆく花と流れる水、落花が水に流れる様子から過ぎゆく歳月と春の景色を表す言葉です。
渋いタイトルと表紙に騙されないでほしい。これはコメディです。たぶん。
主人公、水咲は田舎の町で暮らす女子高生。
幼稚園の頃から近所のおにいちゃんに片想いし、その想いはおにいちゃんが高校教師になるというのでその赴任先の高校を受験するほど。おにいちゃんは町中で評判の優等生で、運動もできて、書道教室で字も上手くて、小さな子にも優しい、ご両親とも教師でさらにお父さんは高校の校長という、完璧なおにいちゃんなのです。ところが、そのおにいちゃんが逮捕されます。パンツ泥棒の罪で。盗んだパンツは八百枚にもおよび、テレビでも報道されてしまいます。
町中に激震が走る中、水咲はひとりおにいちゃんの無実を信じるのですが…。

物語の中は大変な状況ですが、登場人物たちはどこかぬけてて面白いのです。
「この1年の間に約八百枚盗ったってことは一日約二枚か。勤めながらだから結構なノルマだな」
という友人に対して水咲は
「先生は自分が決めたことは、ちゃんとやり抜くから。だから部活しながらでも国立に受かったし…」
と変なフォローをし、そんな水咲にさらにほかの友人が
「百万本の薔薇で広場を埋め尽くせばシャンソンになるけど八百枚のパンツで広間を埋め尽くしたら犯罪者なんだよ」
「水咲は十年以上の思いをこんな形で終わらせたくないだけなんじゃないか?フラレたのでもなく、相手がパンツ泥棒で捕まって強制終了ってのが嫌なんだろう」
「それ鉄板ネタになると思うけど。アンミカの元カレが国際スパイだった並みの。いいじゃん水咲、オイシイじゃん。」
と続けるこの深刻さがない感じ。

和山やまさんや佐々木倫子さんの漫画が好きな人は、この本もきっとはまるんじゃないかと思います。
作者は驚くことに執筆当時リアル女子高生で、しかも受験生!瑞々しくもどこか渋いお話をぜひ味わってください。